【No.87】「ワンちゃんやネコちゃんも科学論文の共著者に?」 

論文の著者に動物の名前も入れます・・・普通に考えると当然だめですよね。しかし、少し前に読んだ本の中で気になる記述がありました。「世界的に有名な科学雑誌の一つに掲載されたある女性研究者の論文に、共著者として飼い犬の名前が入っている」というものです(1)。インターネットで調べてみると、他の科学論文でも共著者にネコちゃんやハムスターを入れていました(2)。

科学分野で研究を世の中に発表するときは、その研究のレベルに合った科学雑誌へ投稿します。多くの雑誌は専門の編集者が掲載するしないの審査をします。しかし、投稿すればすべて掲載されるわけではありません。科学雑誌にも分野別にランクがあり、ピンからキリまでさまざまで、論文発表したからすごいではなく、どこのどんな雑誌に掲載されたか重要です。

科学論文の共著者に人以外の動物の名前を入れることは誰も考えないでしょう(ほんの一部の研究者を除いて)。だって、そんなことを言い出しだけで異端者扱いで、その後、科学雑誌に論文を掲載してもらえないでしょうし、学会からもブーイングです。その後の研究職での転職も大変だと思います。

今回紹介する3氏は共著者に動物の名前を入れて論文を発表したにもかかわらず、論文掲載後も活躍していますから真の実力者です。素晴らしい。

まず、Polly Matzinger氏とワンちゃんGaladriel Mirkwoodの1978年の論文です(3)。論文は、体がどのように病気と闘っているのかを研究する免疫学の分野の内容で、免疫学を含む実験医学で権威のある雑誌の一つ、Journal of Experimental Medicineに掲載されています。

共著者(ワンちゃん)はアフガンハウンドのGaladriel Mirkwoodです。Polly Matzinger氏は一人で論文を書きました。この論文の共著者がなぜ自分のワンちゃんの名前を入れてれたのか不明です。普通の科学論文では、伝統的に受動形で書いたり、一人称(I・・・)で書かないで三人称(We・・・)で書きます。たぶん単独の著者なのにWe・・・を使うことに疑問を感じ、簡単にタイトルページの著者を複数にしたのでしょうか。直接本人が報告した記事がないので推測にすぎません。何かに対しての反抗、または社会に対してのメッセージもあったのでしょうか。

次は、物理学者・数学者でミシガン州立大学の教授のJack H. Hetherington氏とChester(ネコちゃん)との論文です(4)。アメリカ物理学会が出版する物理学の最も権威ある雑誌Physical Review Lettersに掲載されました(1975年)。

F.D.C. Willardがネコちゃんの名前ですが、イニシャルは、Felica Domesticus(家猫)、Chester(ネコちゃんの名前)で、F.D.C.そして、Willardは、Chesterのお父さんの名前。論文を書き上げ投稿直前に同僚に読んでもらい、その後、共著者の名前を入れたそうですから、三人称(We)で書いた論文にマッチするようにしたのでしょう。当然、ユーモアだけかもしれません。

もう一つは、2001年に発表された、オランダのラドバウド大学(旧イメーヘン大学)の教授で物理学者のAndre Geim氏とハムスターさんのTishaちゃんの論文です(5)。共著者名H.M.S.ter Tisha(=ハムスターのTisha)のイニシャルは、明らかにh(a)msterからのものです。

Andre Geim氏は、2010年にKonstantin Novoselov(コンスタンチン・ノボセロフ)氏とともにノーベル物理学賞を受賞しています。2000年には「カエルの磁気浮上」でイグ・ノーベル賞も受賞しています(6)。

論文の共著者に人以外の動物を入れても、ノーベル賞を受賞できたり、研究を継続できる環境って素晴らしいですね。そんな研究(研究者)を理解してあげるような「人と動物との絆」を大切にする社会を目指したいものです。

参考文献 1:
「美しき免疫力」人体の動的ネットワークを解き明かす(The Beautiful Cure: Harnessing Your Body’s Natural Defences)、ダニエル・M・デイヴィス(Daniel M. Davis)著、久保尚子訳、NHK出版(2018年)。著者の英マンチェスター大学免疫学教授が、免疫学の学者たちの研究の物語を大変分かり易くまとめています。また、久保尚子氏の翻訳が素晴らしい。

参考文献 2:
フランス国立科学研究センター(CNRS)のシルヴァン・デビル(Sylvain Deville)氏のwebsite。2014年の記述。 https://sylvaindeville.net/2014/07/11/help-my-co-author-is-an-animal/

参考文献 3:
Matzinger, P. and Mirkwood, G. (1978) In a fully H-2 incompatible chimera. T cells of donor origin can respond to minor histocompatibility antigens in association with either donor or H-2. http://jem.rupress.org/content/jem/148/1/84.full.pdf

参考文献 4:
Hetherington, J. H.; Willard, F. D. C. (1975), “Two-, Three-, and Four-Atom Exchange Effects in bcc ³He”, Physical Review Letters, 35: 1442–1444. https://journals.aps.org/prl/abstract/10.1103/PhysRevLett.35.1442

参考文献 5:
Geim, A.K. and H.M.S.ter Tisha (2001) Detection of earth rotation with a dimagnetically levitating gyroscope. Physica B: Condensed Matter, 294&295, 736-739. https://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S0921452600007535

参考文献 6:イグ・ノーベル賞は「人々を笑わせ、そして考えさせてくれる業績」に対して与えられるノーベル賞のパロディーです(2018年9月―11月、東京水道橋Gallery AaMoで「イグ・ノーベル賞の世界展」が開催)。 https://www.improbable.com/2010/10/05/geim-becomes-first-nobel-ig-nobel-winner

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